隣の沈さんが靴箱に鍵を置いた
【架空の成人小説。登場人物は全員25歳以上の成人】
二本目の鍵は靴箱の底でまだ冷たく、チャイムが鳴ったとき、階段には下の階で焼いた落ち葉の匂いが残っていた。
向かいの沈さんは三十四歳で、結婚して八年になる。僕は三十一歳で、この階に二年住んでいる。表札は沈だ。彼女は階段で一度立ち止まり、肩についた焦げを払ってからベルを押した。ドアが開いても、すぐには入らない。鍵を靴箱の上に置き、先に聞いて、と言った。
ヒールはマットの上で揃う。カーテンは半分だけで、街灯が横顔を暖かい半分と冷たい半分に切る。結婚指輪を一回まわして、玄関の磁器の小皿に置く。座るならソファだ、と彼女は言った。シーツの匂いを家へ持ち帰るのが怖い。僕はぬるくなった湯を淹れた。夫は出張で、出ている日は数えられる、と。指が僕の手に触れて、すぐに離れた。その一拍を、問いの前に置いた。
助けを求めに来たのではない、と彼女は言った。責任を押しつけに来たのでもない。自分に何度も聞いた。残りたい。あなたもそう思ってほしい。思わないなら、鍵は今夜返して。そのあとのエレベーターでは、頷くだけ。
いてほしい、と僕は言った。
彼女は僕を見て、声は落ち着いていた。確か? 同情でも、ドアが開いていたからでもない。
確かだ。残ってほしい。今夜と、あなたがまだ来ると決めた夜に。鍵を持って帰るなら、それが止まりだ。止まりに、説明はいらない。同意している。
彼女は頷き、コップをまっすぐ置いた。じゃあ、ゆっくり。灯は消さないで。真っ暗な部屋が怖い。それに、今夜を盗みのようにしたくない。
ソファに長く座った。掌は最初乾いていて、あとから熱くなった。指を一本ずつ開いて、また閉じる。この手が差し出した手で、奪った手ではないと確かめるように。キスは軽い。途中で止まる。こうしていい? いい。手はここに置いていい? いい。
外では誰かが屋台を畳み、鉄板が二度鳴った。彼女は顔を肩に隠す。息が襟に落ちる。寝室にはまだ行かない。シーツが家の匂いを連れて帰るのが怖い、と。ソファの布は温度を残す。持って帰れないものは、ここに置いていく。
灯の明るさは変わらない。耳の先は赤いのに、言葉ははっきりしている。ここで終わりにしてもいい。止まりたいなら、止まる。どちらかが止まると言えば、そこで止まる。
僕は止まりたくなかった。じゃあ、もう一度言って。
「望んでいる。あなたも望んでいる。これがいい。止まるときは、一緒に止まる」
彼女は短く一度笑った。灯は同じ明るさのまま。そのあとのことは、誰にも話さない。カーテンの隙間では、街灯が別の部屋の月に見えた。声を落とす。部屋に残るのは息と、ソファのばねが小さく鳴る音だけだ。
あとで彼女は寄りかかり、髪を耳にかけ、階段にいたときの顔に戻った。土曜に彼が帰る。木曜の出張が変わらなければ、また来る。来る前に句点を一つ送る。あなたが句点を一つ返せば、二人ともまだこれを望んでいる、という意味。返さなければ、下の郵便受けに鍵を入れて、来なかったことにする。
わかった、と僕は言った。
指輪をはめ、一回まわして戻し、石を外へ向ける。ドアの前で止まる。後悔する?
後悔する人は、二本目の鍵を靴箱に残さない。
下唇に短いキス。返事を元の場所へ戻すように。ドアが閉まると、階段には焼き終わった葉の匂いだけが残った。鍵は古い靴の下へ。灯はしばらく残してから消した。
土曜、エレベーターで三人は顔を合わせた。彼女は買い物袋を持ち、夫に頷き、隣人にも頷く。指輪は指にある。目は逸らさない。七階で先に降りる。扉が閉まる前、指の節が手の甲に触れた。偶然に見えるほど軽く。
木曜の九時二分、句点が一つ来た。僕も一つ返した。
十一時に彼女が来た。同じヒール。同じ半分のカーテン。同じ小皿。座る前に言う。まだ望んでいる。あなたは?
まだ望んでいる。
鍵は今度、彼女の手で靴箱に入った。それから座った。灯はついている。誰も消さない。
間の日、僕は文字を送らなかった。一日に一度、靴箱を開けて鍵を見て、すぐ蓋をする。靴紐はほどけたままだ。階段で金属が鳴るのが嫌だった。
日曜の夜、向かいの声は短く、冷蔵庫のスープの話のようだった。僕は自分のドアの側にいた。三十一歳だ。余分な一文が、これを要求に変える。彼女が欲しいのは句点で、長い手紙ではない。
月曜、郵便受けに鍵はなかった。それを合図だと思い、数え始めるのは木曜だと自分に言った。水曜は雨。磁器の小皿を拭いて戻し、普通の皿に見えるようにした。カーテンは半分だけ。真っ暗が怖い人のために。
九時二分、句点が来た。余分な字はつけずに返した。彼女はコートを椅子にかけてから近づく。句点はまだ有効? 有効だ。じゃあもう一度聞く、と彼女は言った。数日で返事は変わる。まだ残ってほしい? ほしい。嫌だと言っていい。罰はない。鍵を持って帰り、エレベーターでは頷くだけ。持って帰らないでほしい。
灯の下で手を取る。いい? いい。ここは? いい。待ってと言うなら、止まる? 止まる。頷いてから、額を肩に預けた。寝室はまだ使わない。止めるときは彼女が先に言う。僕も一緒に止まる。指輪をはめ、鏡を見る。僕を見るためではなく、買い物袋を持ってエレベーターに乗る人に、まだ見えるかを見るためだ。
一時前に帰った。ドアの外までは送らない。鍵は靴箱に残る。朝、向かいの靴は二足、揃っていた。水を淹れて、何も送らなかった。
椅子に黒い髪が一本残っていた。取っておかない。次の句点は八時四十。指輪を小皿に置き、三つ聞く。まだ望む? 手はいい? 止まると言えば、二人とも止まる?
一つずつ、いい、と答えた。灯は消さない。残りの言葉は息に任せる。彼女は三十四歳。僕は三十一歳。二本目の鍵は靴箱の中で、次の返事は、来るならもう一度言わなければならない。
- 公開ライブラリ
- 雨の夜、ホテルを言った。ミラーの運転手は聞かなくなった。
- 社員旅行の最終夜、彼女がキーをポケットへ
- 結婚記念日、カーテンを閉めたあと
- 年夜飯の乾杯のあいだ、物置の灯が消える
- 契約最終日、名札と部屋番号を渡す
- ホテル撮影|残業のあと「帰りは聞かないで」
- 初めて自分でカメラを据えて、笑って枕に顔を埋めた。
- 曇った鏡を手で拭いて、あなたを見る。
- クラブ残業、灯は一つ。名札を放る。
- 夜のアポ|ドアの前で指輪をバッグへ
- オフィスの灯は一つ。シャツをほどいて机に座る。
- リビングの灯はついたまま。隣がノックしてくる。
- 赤いドレス|向かいの席で夫が煙草を吸う
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